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高校の弱小バスケットボールチームが奇跡のような快進撃を見せて、韓国中を驚かせた実話を基にしたスポーツ感動作『リバウンド』(4月26日公開)で、情熱的に生徒たちを導くコーチを演じているアン・ジェホン。多彩な作品で独自の存在感を発揮する個性派俳優の軌跡を振り返ってみたい。
【写真を見る】10kg増量して実在のコーチを“完コピ”した『リバウンド』のアン・ジェホン
■「図々しいのに魅力的」なキャラクターを演じて人気を集めた“次世代ソン・ガンホ”
アン・ジェホンの名を一躍広めたのは、ドラマ「恋のスケッチ~応答せよ1988~」だった。当時29歳だった彼が演じたのは大学を目指して6浪中のジョンボン。勉強には全然身が入らず、切手収集や電話帳で珍名さん探しをして日々過ごしている。かなり変わったクセのある人物だが、ひょうひょうとした表情のアン・ジェホンを見ていると、次第に好感が持てるようになる。劇中で恋に落ちたジョンボンが、カン・ドンウォンやヒョンビンが主演した作品の伝説的ラブシーンを再現する場面は、今なお忘れられない。この役のために10kg以上も増量し、イケメンとは言えない外見で演じているにもかかわらず、なぜだかかっこよく見えてしまうから不思議だ。
ジョンボンのキャラクターは中国でも人気を集め、あるドラマではヒロインの友人が大ファンという設定で、彼の顔写真付きうちわを使う場面が登場したほど。それだけこの役が多くの人の心をつかんだことがわかる。ただ、アン・ジェホン自身は以前から独立系映画では高い評価を得ていた。『1999、面会』(12)に続き『足球王(原題)』(14)で各賞を受賞し、“次世代ソン・ガンホ”と称される映画界のホープとなった。
本人は別に笑わせようとしているわけではないのに、ちょっとした表情や動きによってなんとも言えないおかしみを感じさせる。そこが人とは違った彼独特の魅力で、誰もが認めるイケメンではなくとも、モテる役がしっくりくるゆえんかもしれない。「サム、マイウェイ~恋の一発逆転!~」の通販会社の有能な社員ジュマンもなかなかのモテ役だった。ジュマンは結婚を前提に長年一緒に暮らす恋人がいながら、若いインターンに積極的に迫られてぐらつき、心ならずも2人を天秤にかけることになってしまう。普通なら視聴者の怒りを買いそうな役どころだが、ジュマンが思い悩む様子には親近感さえ覚えるくらいで怒る気にはなれない。アン・ジェホンには生来の愛嬌だけでなく、人の心を油断させて、多少のことなら許せてしまう気にさせる力があるようだ。
さらに、やけに図々しいのにそこが素敵、といったキャラクターを演じて最高の魅力を発揮する。『エクストリーム・ジョブ』(19)のイ・ビョンホン監督が手掛けた初のドラマ「恋愛体質~30歳になれば大丈夫」ではその魅力がうまく引き出された。テレビ局のドラマ制作部所属のボムスは、若くしてヒット作を連発したスター監督。常に自信満々で怖いものなしだから、一緒に仕事をすることになった新人脚本家に対しても最初は翻弄するような素振りを見せて、悪い男かとも思わせる。それでも彼女に惹かれていく自分に気づけば、その気持ちを素直に認めて向き合う。ボムスの微妙な感情の変化を淡々と見せるアン・ジェホンの職人技とも言える演技にうならされる。
■キャラクターとの見事な一体感で作品によって印象が変わる
映画でも『操作された都市』『王様の事件手帖』(ともに17)といったメジャー作品から、ホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』(17)、『草の葉』(18)、新人監督による独立映画『小公女』(17)のような文芸作まで様々な作品に出演。2020年は奇想天外な方法で動物園を再建する弁護士に扮した『シークレット・ジョブ』に主演し、お得意のとぼけた持ち味を発揮した。荒廃した世界を舞台にした『狩りの時間』(20)では犯罪に手を染める若者といういままでにない役柄を、短く刈り込んだ髪を金色に染めて演じイメージを一新している。
ただ、アン・ジェホンならどんな役でもこなせるだろうから、何を演じても驚かない。そんなふうに思っていたところ、それでもびっくりさせられたのが「マスクガール」(23)のオナム役だった。顔を隠してネットでライブ配信をするヒロインが会社の同僚だと気づいて一方的な想いを寄せ、妄想を膨らませていくオナム。彼がやがて歪んだ欲望を爆発させる様子は不気味で生々しい。この役のために、再び10kg以上体重を増やしていただけでなく、薄毛のメイクに2時間以上費やしたと聞いて、演技への真摯な姿勢に頭が下がる思いになった。
『リバウンド』はそんなアン・ジェホンにとって3年ぶりの映画。本人が出演を切望したというだけあって、実在人物であるコーチの実際の姿とのシンクロ率の高さをはじめ、キャラクターとの見事な一体感を披露した。彼なくしては作品の成功はなかったと思わせる。なんと「マスクガール」と同時期に撮影していたそうで、その演技力の高さには脱帽するしかない。
最新ドラマ「タッカンジョン」(24)では再度イ・ビョンホン監督と組み、謎の機械によってなぜかタッカンジョン(鳥の唐揚げ)になってしまった片想いの相手を救うために奔走するベクジュンを演じた。うざくてヤバいヤツにも見えるものの、愛嬌があって憎めないというアン・ジェホン自身の持ち味のせいか、意外に愛すべきキャラクターになっている。
どの作品を観るかによって、アン・ジェホンに対する印象は違ってくるかもしれない。いずれにしても、彼がすばらしい俳優であることは誰もが認識できるはずだ。
文/小田 香
(出典 news.nicovideo.jp)
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